生涯剣道

堀江 宏先生

第2回目は基立ち先生で最もご高齢な堀江先生に、インタビュー形式でお話を伺う事にいたしました。先生のご協力で纏めさせて頂きました記事を改訂し、再掲載させて頂きました。若い人への思いが込められています。

 『私と剣道の出逢いは旧制中学生の入学時からです。当時の中学校では剣道(柔道)は正課でした。併せて部活も剣道を選び、5年間を過しました。一浪して中央大学予科に進みましたが、その間1年、受験勉強中も剣道は続けました。大学では部活に入らず、勉強しようと決意したはずなのですが、一ヶ月としないうちに学食に行く途中の道場で、稽古している音を聞くや、気付いたら体が勝手に道場に入って行ってしまいました(笑)。

 当時は太平洋戦争の只中で、入学後2年目に学徒出陣で軍隊へ行きましたが、復員して大学に戻り、昭和23年に卒業しました。その頃は就職難で、一旦郷里山口に帰りますが、昭和25年、警察予備隊(今の自衛隊)に奉職しました。 自衛隊にはその後定年まで勤めたわけですが、結局、戦後の混乱期や、自衛隊での25年間に度重なる転勤等があり、20歳代~40歳代の一番大事な時期を、剣道では特定の先生の指導をいただいたり、十分な稽古も出来ないまま大きな空白ができました。

 昭和45年、結婚後三鷹に新居を求めて引越し、近くの大沢で剣道の稽古ができると聴かされて、ようやく腰を据えて剣道ができるようになりました。これで調布剣連の先生方とも親しく稽古ができるようになりました。これは大きな空白を50歳代からでも埋めたいという思いからのことです。』

 先生は良く本を読まれます。本を読むことで、物を考えたり、文章を書く力がつくので、子供達には剣道の他にも本を読む習慣も養ってほしいと勧められます。また、剣道の幅を広げるためにも、剣道関係以外の本も読むようにと奨められました。

 「これからの剣道」をお尋ねしたところ、剣道はスポーツと同列のものではない。何故なら心身相伴って高齢になっても続けることができる他のスポーツには無い、すぐれた何か(それが何であるのかは未だ私にはわかっていないが・・・)があると明言されます。そして剣道の原点である刀法と、刀法修練を通じて心を鍛える修業がこれからの剣道にも必要なことと云われました。

 また、こんな事もお話しされました。道場訓の中に”礼儀を正しくしましょう”というのがある。これはただ挨拶するだけのことではない。礼儀とは、礼:相手の人格を認め、敬うこと。儀:礼を形(所作や言葉)に表わすこと。からなるもので、どちらが欠けてもダメです。その第一歩が挨拶だと思います。そして、道場では勿論、道場以外のどこでもできるようになるのが大事と言われました。もし子供達が出来ていないなら、それは指導者がきちんと教えていないからで、これは「教えざるの罪」だ!と言われます。耳の痛いお言葉ですが、私達も肝に銘じた次第です。