生涯剣道
小野 洋助先生
「生涯剣道」記事の依頼について
ホームページには「生涯剣道」のキャッチフレーズで、加盟団体の各道場で基立ちをされている先生方の記事を掲載して行きます。 第7回以降は質問に応えて頂きながら修行時代の思い出を探り、最後に子供達へのメッセージをお願いしています。 第7回目は中央剣道会の小野洋助先生にお願いしました。
1.剣道を始められたのは何歳の時ですか?またその動機はなんでしたか?
剣道を始めたのは、確か昭和31 年~32 年頃(小学3 年生の終わり頃か4 年生の初め頃)だったと思います(9 ~10 才)。 当時はテレビやパソコン、携帯電話といったものはなく遊びはもっぱら外でチャンバラをしたりする身体を使う遊びが主体で、屋内での楽しみは唯一ラジオを聴く位でした。 当時ラジオ放送の「赤胴鈴の助」がとても好きで、放送が始まるとラジオに耳を付けて聞いておりました。(今と違い性能が悪く耳を付けていないと聞き漏らすので)そんなある日、近所の子供達の間で、今度警察署で日本刀による真剣勝負があるらしいといううわさが流れ、それを確かめに行こうということになり、友達と連れ立って見に行きました。紋付袴で立ち会う姿は子供心にもとても格好良く、さながら時代劇の映画を見ているようでとても強烈な印象を受けました。自分もああなりたい、との思いから剣道を始めようと決心したことを今でもはっきり覚えております。
その時は分かりませんでしたが、日本刀による真剣勝負というのは実は「日本剣道形」のことで、本物の日本刀の刃引きを使用し、剣が交わる時火花が散り迫力満点でした。
2.その頃の稽古法や稽古内容を教えてください。
切り返し、掛り稽古が主で、先生に掛る稽古が主体だったように思います。先生や先輩の稽古を見て真似ることで結果的に技を覚えたのだと思います。また家に帰ってからは、よく外で素振りをしたのを覚えています。
今と違って先生から手取り足取り技について教わった記憶はあまりなく、試合稽古もあまりやった記憶がありません。しかし剣道をやる上についての作法(礼法)や竹刀や防具の扱い方(大事に扱う)についてはとてもうるさく指導されました。今でもとても役に立っております。
3.剣道をやめたいと思われた時期はありましたか?
剣道をやめたいと思ったことは正直あまり記憶にありませんが、社会人に成りたての頃、仕事が忙しいことや、他のスポーツ(スキー、ゴルフ等)に興味がわいたこともあって剣道から遠ざかった時期がありました。
仕事にかまけて稽古をちょいちょい休むようになると、次第に道場の敷居が高くなり、稽古がある日には行けない理由を見つけて休むようになり、(自分の意思が弱かった)気が付いてみると20 数年の月日が経っていたのです。
これではいけないと思いつつ再開の機会をうかがっておりましたが、たまたま長男が剣道を習い始めたのをきっかけに剣道を再開することが出来ました。
剣道を長く続けるには、まずは剣道を好きになることです。厳しい稽古の後の開放感や爽快感はとても心地良くやった人だけが味わうことの出来るすばらしいものです。
もうひとつは、自分自身のライバルを見つけることです。時には競い合い、時には悩みを分かち合い切磋琢磨することでひいては生涯剣道につながるものだと思っております。細々でも良いから続けることが重要なのです。即ち「継続は力なり」です。
4.忘れられない一本はありますか。
10 数年前のことですが、調布市の大会で長田先生(現調布市剣道連盟副会長)と決勝で対戦した時のことです。一本先取されすぐに一本を返し、勝負としました。その時の一本は、相手の中心をジリジリと攻めながら前に出て、後は何も考えずに思い切って面打ちに出てそれが見事に決まったのです。きっと体重移動がスムースに行ったのでしょう。
年に一度有るか無いかの会心の真面だったのを今でもはっきりと覚えております。
その後試合は一本を返され優勝は出来ませんでしたが納得のいく試合でした。
5.恩師と慕う先生はどのような先生ですか。
私の剣道人生において大きく影響を受けた先生は、長内淳介先生(範士八段 弘前市在住)です。 先生との出会いは、今から16 年程前になりますが私が20 数年ぶりに剣道を再開した頃に先生は私と同じ会社におられ、当時会社にあった洗心館道場で指導されておりました。先生の剣風は、基本を重視したどちらかといえば地味な剣道ですが、絶対に中心を譲らない真直ぐな剣道で、私はいっぺんにその剣風と人柄に惹かれ、剣道にのめり込んでいきました。とても厳しい稽古でしたが、私にとってはやること成すことが全て新鮮でとても充実した時期でもありました
またある時期から先生と、刃引による剣道形の稽古をやるようになり(週2 回剣道の稽古の後)、先生が定年退職し弘前に帰られるまでの約2年間ほとんど休む事無く続けられました。 剣道形の稽古を通じて刀の扱い方、打突の理合、呼吸法等々を先生から無言の教えを頂き、ひたすら繰り返すことでそれが自信につながり誇りとなり私の剣道観を大きく変えるきっかけとなりました。
6.稽古の中で特に工夫されていることを教えてください。
私は剣道の実技で一番重要なのは、構え(立ち姿)だと思っております。ゆったりとした気持ちで剣先を相手の中心に付け、どんな時でも相手の動きに対応できるような構えが理想だと思っております。簡単な様でとても難しいものです。構えた時の左手の位置や、左足の向き、重心、目付け、呼吸等々チェックポイントは色々あると思います。普段の稽古でこれらのポイントを意識し,試行錯誤しながらやっております。
7.「座右の銘」を教えてください。
「継続は力なり」
「剣は心なり、心正しからざれば剣又正しからず、剣を学ばんと欲すれば、先ず心より学ぶべし」(島田虎之助)
8.剣道関連の好きな本をご紹介ください。
「剣と禅」 大森曹玄著 春秋社
「山岡鉄舟」 大森曹玄著 春秋社
9.最後に今の調布の子供たちにメッセージをお願いします。
剣道の教えのなかに「守破離(しゅはり)」という教えがあります。
*「守(しゅ)」とは、剣道を習い始めの頃は先生の教えを素直な気持ちで聞き、教えを忠実に守り繰り返し、繰り返し稽古に励み身に付けなさいという意味です。
*「破(は)」とは、今まで教わって、身に付けたことからさらに一歩前進し新しい技を取り入れることを心がけ、さらに心と技を発展させなさいという意味です。
*「離(り)」とは「破」からさらに稽古を積み重ね、「守」にこだわらず「破」も意識せず、新しい世界を開き人が真似できない様な独自のものを生み出しなさい。という意味です。
「守破離」は単に剣道の教えにとどまらず、学業や社会に出てからも全てに当てはまるとても貴重な教えです。自分が今どの段階にいるのか次に何をやるべきなのかを良く考え、日々の稽古に励んでもらいたいと思います。
剣道は、日本古来より伝承されている武道でとてもすばらしい日本の伝統文化です。その素晴しい剣道を実践している皆さんはとても幸せだと思います。どうか誇りと自信を持って続けてください。