生涯剣道

井上 直樹先生

 第21回は井上先生です。井上先生は現在、企業人としては海外にも拠点を持つ電子系最先端技術を教える専門学校で、数多の学生からの相談や指導に当られる頼りになる存在。多忙なお仕事の傍ら、中央会では日曜日と水曜日に中級の指導を担当され、子供達に気合の入った指導を行って頂いております。

1. 剣道を始めたのは何歳ごろですか?、動機は何でしたか?

 剣道を始めたのは小学校1年生になってからです。近くの警察署の剣道教室に通ったのが最初です。
父親が警視庁の警察官であったので警察署の道場に行きました。父親は柔道が専門だったのですが、私はなぜか父親と違う剣道を選んだようです。その後、自宅の転居などで小学校3年生夏から4年生の夏ぐらいまで1年間あきましたが、結局剣道を今まで続けています。

2. その頃の剣道具や稽古法、稽古内容は現在と違いますか?

 稽古の内容は今と大きく変わらないと思いますが、稽古の時間は今よりも長かったと思います。
特に基本動作(礼法・蹲踞・素振り)や基本打ちは徹底的にやっていたため、試合稽古などをした覚えがあまりありません。実際に試合に出始めたのも5年生ぐらいからでした。
剣道具は今より数段重たかったです。私の剣道具は、父親が警視庁に勤めていたので警視庁の先生方からいただいた物が多かったです。剣道具(特に籠手)は傷めば修理、また修理と限界までつかった思い出があります。その分、剣道具や竹刀は大切に手入れをしていた気がします。

3. 子供の頃の稽古量はどうでしたか?、現在と比べて違いますか?

 小学生時代は週に3日程度。中学では部活動で毎日行い、部活動が終わってから道場の稽古にも行っていました。
高校時代は1年間360日ぐらい稽古をしていました。とにかく今のよりも稽古時間は長かったように思います。

4. やめたいと思ったことありますか?、続けられた要因は何ですか?

 剣道をやめたいと思ったことはなかったと思います。それぐらい剣道が好きだったんだと思います。
稽古はとても厳しかったですが、稽古をする分だけ強くなっていくのを感じられましたし、強くなりたいといつも思っていました。小学校の時は、サッカークラブや野球チームやバレーボールクラブにも所属しましたが、中学校になるときに剣道一本に決めたぐらいです。高校受験の年も稽古をしない週はなかったぐらいです。それぐらい剣道をするのが、なぜか好きでした。

5. 得意技は何ですか?、また稽古で心掛けていることは何ですか?

 特に得意という技はありませんが、高校までの試合では相小手面が多かったです。大学で胴や突きや小手技が増えたような気がします。稽古では初太刀をものすごく気にします。先生にかかる時も小学生とやる時もそこはいつも真剣です。初太刀は間の取り方、攻め方、先の仕掛け、心の持ち方すべてが整わなくてはいけません。その為、立礼から蹲踞、立ち上がって攻める、ということまで意識します。
稽古はお相手の呼吸をみるようにしています。それは間の取り合いをしている竹刀さばきから感じることもありますし、攻め方もあります。技はお相手に合わせて出せるようにしますが、先生にかかっていく稽古の時は、自分から攻め込んで面技で行くことの方が多いです。

6. 忘れられない一本があったなら、それについて教えてください

 剣道人生の中でたくさん打ったり打たれたりしている中で、忘れられない一本は数本思い出されます。ここ最近でいうと七段審査を合格した時の初太刀です。その初太刀は双方緊張した攻め合いの中、少し自分が攻め勝っていたと感じました。私は、少し左にさばきお相手に少し隙を与えた形になったため、打ちに出てこようとした相手の中心を裏から取り直し出てくる瞬間をとらえた会心の出小手だったと思っています。
この裏から攻めての小手打ちはそれまでほとんどしていなかったのですが、私の大学の同期で全日本を制覇した岩佐選手(現:警視庁)が全日本を優勝した時に出していた技を、良い技だと稽古したものでした。

7. 大きな影響を受けた先生や恩師と慕う先生について教えてください

 私が本当の意味で剣道を教わるきっかけになったのが、高校時代の恩師である榊 悌宏先生(教士八段 東海大学付属浦安高校教諭)です。剣道の厳しさ、勝負の厳しさ、指導の難しさなど現在でもご指導いただいております。
その後、東海大学に進学し榊先生の恩師にもあたる、故橋本明雄範士、網代忠宏範士八段と出会いました。剣道とは、稽古とは、攻めとは、など剣道の奥深さを丁寧にご指導いただくことになりました。大学時代はこんなに剣道を勉強したことはないというぐらい勉強させていただき剣道がある意味楽しくなりました。

8. 座右の銘があれば教えてください

 「我以外皆我師」
自分以外の、人でも物でも、自分に何かを教えてくれる先生だという意味です。親から、友達から、学校の先生、剣道の先生から、言われたことはなんでも学ぼうという気持ちを持ちたいです。

9. 是非お勧め!という本があれば紹介してください

 「六三四の剣」…漫画ですが、今の時代でも「剣道」を様々な面から教えてくれると思います。

10. 最後に子供達へのメッセージをお願いします

 努力とは目的を達成するために行うもので、目的とした結果が出ない間は「努力した」とは言わないと思っています。