生涯剣道

鈴木 敦之先生

長らくご無沙汰してしまいました「生涯剣道」ですが、先生方の記事を読んだ会員の声を良く耳にします。
アクセス数も多いので、今回は未登場の先生方にお願いしました。第15回は鈴木先生です。

1. 剣道を始めたのは何歳ごろですか?、動機は何でしたか?

剣道を始めたのは小学校2年生の2学期からです。
幼少期は極度に病弱であったため、両親が心配し、小学校2年生の4月まで過ごしていた相模原では体操学校・水泳教室に通っていました。しかし、小学校2年生の5月から千葉に引っ越したため、両親が相模原に住んでいた時のように千葉でもスポーツができるところを探していたのですが、小学校2年生の子供を受け入れてくれるところがなかなか見つかりませんでした。ところが、近所の一つ上の学年のガキ大将が近所の剣友会で剣道を習っており、その剣友会は小学校低学年でも受け入れていることから、小学校2年生の9月から同じ剣友会に入門させていただきました。

2. その頃の剣道具や稽古法、稽古内容は現在と違いますか?

今も昔も礼法の重要性や基本稽古の徹底といった根本的なところは変わらないと思います。他方で、今と昔で大きく異なるのは次の点です。
・先生方が非常に優しくなった
・指導が科学的・合理的かつ効率的になった(私が子供の頃は稽古中の水分補給などはもっての外でした)
・剣道具が進化した(剣道具の軽量化、体形にあった剣道具、等々)
・子供達の対外試合の数が少なくなった(その分、普段の稽古が充実しているといえます)
・道場の掃除が「雑巾がけ」でなく「モップがけ」になった

※現在所属している調布中央剣道会(現在)と私が小中学校にお世話になった剣友会(当時の状況)との比較です。なお、当時所属していた剣友会の小中学生の門下生はピーク時で130人くらいいました。また、(当時)市の少年剣道大会にエントリーする道場/剣友会の数は50を超えていたためか、市内だけでもかなり多くの公式試合がありました。

3. 子供の頃の稽古量はどうでしたか?、現在と比べて違いますか?

私が小中学校の頃に通っていた剣友会(当時)は、次のクラス(組)に分けられていました。
・ハチマキ組(防具をつけずハチマキをつけて毎週日曜の10時~11時に基本稽古:半年間)
・10時組(ハチマキ組を経て、日曜10時~11時に面以外の剣道具をつけて切り返し・打ち込み等の基本稽古:半年間)
・11時組(10時組を経て、日曜11時~12時まで面をつけての基本稽古・応用技等の稽古:半年間)
・1時組(11時組を経て、日曜13時~15時と土曜の15時~17時に基本稽古・応用技等の稽古・かかり稽古・指導稽古・試合稽古等の稽古)

はじめは週1回(1時間)の稽古でしたが、小学校4年生の4月から1時組に昇格したことから週2回(2時間)の稽古になりました。その後、小学校5年生からは平均月1回程度 対外試合に出させていただいていたこともあり、剣友会の先生の勧めで(剣友会の土日の稽古に加え)毎週水曜・土曜の19時半~20時半の市剣連の合同稽古(当時)に参加し、市剣連の高段者の先生にどんどんかかっていってました。

中学生になり、剣道部に入部しました。通っていた中学校の剣道部はほぼ毎日稽古があり、土日はたいてい約4時間の稽古/トレーニング(たまに練習試合)でした。(当時は学校の授業は土曜日の午前中まであったため部活は土曜日の午後でしたので、剣友会の土曜日の稽古には顔をめったに出せませんでした。日曜日はたいてい朝7時~11時まで部活をしていたので、午後は剣友会の日曜日の稽古に参加していました。結果、日曜日は一日合計6時間の稽古をしていました。実は稽古量そのものは中学生の頃がピークで、高校・大学の剣道部の稽古量はこれを上回るものではありませんでした。)

社会人になってから稽古量は相当減っていますが、今年は「年間200回稽古すること」を目標にして励んでいます。

4. やめたいと思ったことありますか?、続けられた要因は何ですか?

学生の頃を含め、色々な場面で剣道をやめたいと思ったこともありました。逆に、剣道をしたくても病気になったり大きな怪我をしたり受験勉強等だったりそれ以外の諸般の事情で剣道が全くできないこともありました。それでもここまで細々とですが剣道を続けてこれたのは、まわりに良いお手本となる諸先生方等が生涯剣道を実践されていること(背中で語ってくれていること)に他なりません。私もまだまだ未熟者ではありますが、少しでも背中で語れるような剣道家に近づくべく、精進しているところです。

5. 得意技は何ですか?、また稽古で心掛けていることは何ですか?

特に得意技といえるようなものはありませんが、ここ最近の稽古で心がけていることは「基本の徹底・再確認」です。その中でも毎回の稽古では自分なりに細かいテーマ(目標)をもって取り組んでいます。(とはいえ長年の悪癖はなかなか直りません。地道に取り組んでいます。)

6. 忘れられない一本があったなら、それについて教えてください

小学4年生の時に参加した市の学年別の個人戦で決めた「小手すりあげ面」です。
稽古で習ったばかりの「小手すりあげ面」が実戦で実に上手く決まり、同時に、稽古してきたことと実戦がピタッと一致したことに子供ながら大きな感動を覚えました。以降、稽古に行くのが楽しみになり、剣道にのめりこむきっかけとなった思い出の一本です。

7. 大きな影響を受けた先生や恩師と慕う先生について教えてください

恩師といえる先生は非常に大勢いらっしゃいますが、上述の流れから、小中学生時代の恩師である(故)沼倉公司先生について書かせていただきたいと思います。

沼倉先生は、当時所属していた剣友会の指導の統括をされていました。(剣友会入門初日に指導いただいた(私がはじめて剣道を習った)のも沼倉先生でした。)沼倉先生の指導は礼法・基本を重視したもので、非常に厳しく、一切の妥協がないものでした(厳しい叱咤等は日常茶飯事でした)。他方で、指導稽古(地稽古)においては(全くかなわないものの)先生との稽古は剣道の面白さ・楽しさを実感するものでした。また、先生の「技が大きく、美しい」剣道は子供ながらとても魅了されるものでした。

沼倉先生に最後に稽古をお願いしたのは、2006年12月31日の稽古会でした。10分間ほどみっちり稽古をつけていただきましたが、子供のころに戻ったようにとても楽しく稽古ができました。大病を患っていたので剣道に復帰してから間がないと聞いていましたが、先生の「技が大きく、美しい」剣道は健在でした。稽古後にご挨拶にいった際に私の調布での近況を申し上げたのが、先生との最後の会話になりました。

いま振り返れば、沼倉先生の小中学校時代のご指導の下で私の剣道の礎は築かれたのだと感じています。そして、私が指導者として子供達等に正しい剣道・剣道の楽しさや奥ゆかしさを伝承しつつ自身の剣道を高めるべく修行を積んでいくことが、先生への恩返しではないかと思う次第です。

8. 座右の銘があれば教えてください

継続は力なり

9. 是非お勧め!という本があれば紹介してください

「百回稽古」(小川忠太郎 著)

※小川忠太郎先生(範士九段)が持田盛二先生(範士十段)にかかった(百回の)稽古について記したものです。

10. 最後に子供達へのメッセージをお願いします

剣道は「礼に始まり、礼をもって行い、礼に終わる」 と言われているくらい「礼」を大切にしています。また、聞いたことがあるかもしれませんが「礼」の旧字は「禮」(豊かさを示す)と書きます。このようなことから、私は「心の豊かさを養うこと」が剣道の大きな目的であると思っています。これを踏まえ、(普段から色々な先生方から言われていることと同じ内容ですが、改めて)普段から心がけてほしいことを列挙します。
・道場内外でしっかり挨拶すること
・剣道の正しい所作・礼法をしっかり身に着けること
・所属道場の先生方/学校の先生方のご指導をよく聞いて実践すること
・道場での稽古後の掃除は積極的に自ら進んでやること(他の子がやってくれるのを待たないこと、先生等からいわれてから動かないこと、特に上級生/中学生が積極的に取り組むことで後輩のよき見本になること)
・道場から離れた普段の生活の中でも感謝の気持ちや相手を思いやる気持ちを持ち続けること
これらは剣道人としてとても大切なことですので、ぜひ実践し(続け)て下さい。

最後に、調布の小中学生の少年少女剣士の皆さんが成長していく姿は、指導者冥利に尽きます。私も、師弟同行でこれからも稽古に励みたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。